― 苦情処理検討会 ミニ講座より―

「苦情を考える」−その8−

   日時:  2002年 7月10日(水)
   講師:  (株)エムジー商品試験センター 窪田一郎 氏


「衿周辺に発生する事故」に続いて、「袖に発生する事故」を考えます。

(1) 袖に係わる作用因子

汗、光、雨、ブレスレット・腕時計、バッグ・買い物袋、着用摩擦、着用方法、プレス、
下着などの他の衣類

1)汗
A) 汗は脇下、袖口、上腕部外側、肘関節内側で発汗量が多い。
B) 汗中の塩化ナトリウムの残留による脇下の白い輪ジミは婦人服に多い。
C) 汗中のアミノ酸による変色も脇下に多く認められる。
D) 袖口の皮脂汚れが洗濯のみでは除去できず、洗剤の塗布洗いが必要な場合もある。
E) 汗のみが原因の場合、内側のほうが変化が激しいことが多い。
2)光
A)  光の作用は袖特有ではないが、汗との複合作用で外袖が目立つ。
B) 肩や衿、背部にも発生する。
C) 斑状あるいはヨコ方向に筋状に変退色が発生しやすい。
D) ATTS人工汗液を用いた光汗複合試験がおすすめ。
3)雨
A)一般的には左外袖に暗色化したシミとして生じやすい。
B)シミは斑状もしくは広い面積を覆うように発生しやすい。
C)酸性雨による変色の可能性も考慮する。
4)ブレスレット・腕時計
A) 金属製ブレスレットや時計バンドは汗によって金属が溶出しシミとなることがある。
B) 溶出した金属が染料と反応し、変色原因ともなる。
C) 溶出した金属が繊維に残留し、酸素系漂白剤で生地の脆化を生じる。
D) 芯を用いたカフス部分では着用摩擦による先端部の摩耗を生じやすい。
5)バッグ・買い物袋
A) 袖に取手を掛けると、目寄れや縫目滑脱の原因となる。
B) バッグ類との摩擦で、スナッグやピリングを生じる。
C) バッグ類からの汚染を受けることがある。
6)着用摩擦
A) 肘から下腕外袖、袖口は机やテーブルとの摩擦で擦切れや毛玉を生じやすい。
B) コート袖口折山などにポツポツと小穴を生じ、その後折目に沿って線状に擦り切れる。
C) 脇下部ではフェルト化を生じやすい。
7)着用方法
A) 袖まくりや袖のたくしあげという他の部位には見られない着用方法がある。
B) それによって、袖口の伸びという現象が発生しやすい。
8)プレス
A) ワイシャツやブラウスのカフスは、開口部が平坦に開かないため、プレスでシワが発生したり、大きな収縮を生じやすい。
B) 衿と同様の芯地に関係する問題を生じる。
9)他の衣類
A) 他の衣類との摩擦で、汚染を生じる場合がある。
B) 添毛生地では毛先が引っかかってずりあがることがある。

(2) 袖に係わる感受性因子

芯地樹脂、芯地接着剤、生地、サイズ

1)芯地樹脂
ワイシャツやブラウスなど袖の保形を目的に芯地を使用するが、硬さを調整するため樹脂が用いられる。この樹脂が塩素系漂白剤で黄変したり、洗濯で脱落して保形効果が消失したりする場合がある。
この樹脂にホルムアルデヒドが使用されていると皮膚炎の原因となる場合があるが、非ホルムアルデヒド系の樹脂でも、硬い場合、摩擦による繰り返し皮膚刺激によって皮膚炎を生じることもある。
2)芯地接着剤
芯地接着剤による事故はワイシャツやブラウスに多い。トップヒューズ芯と呼ばれる永久接着芯はカフスの型崩れを防ぎ、家庭洗濯後ノーアイロンでも衿がきれいというメリットがある反面、高温では接着樹脂の染み出しや収縮の原因となる。
仮接着芯などフラッシュ芯と呼ばれるものは、プレス時に引っ張って形を整えないとイセコミ収縮のような現象を生じる。表生地と芯地が剥がれだすと気泡が入ったように見え、完全に剥がれるとカフスにシワが発生することがある。
3)生地
袖口がゴム編になっている製品では、袖口の伸びが苦情となりやすい。袖のたくしあげなどの着用方法も一因となるが、洗濯だけで伸びてしまうものもあり、弾性糸の使用や編たて時点の糸張力・袖口部分の長さとセット時点のサイズなどの見直しを必要とするものもある。
薄地の綿織物などの場合、摩擦によって袖口折山に摩耗を生じやすい。外側と内側の外周寸法の違いにより、内側に生地の座屈を生じ、点々と小さな穴を生じる。コートの袖口や裾に発生する。
ポリエステルの減量加工生地など組織が滑りやすいものは、バッグやショッピングバッグを腕にかけた部位に目よれを生じしやすい。上腕最大部にも目よれを生じることがある。
ベロア調生地を使用したものは、着用時にずりあがりやねじれを生じる場合がある。下着との組み合わせに考慮を要する。
4)サイズ
特にブラウスのアームホール周囲長と袖山の高さが不適切なものは、上腕最大囲周辺に目よれを生じやすい。


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