― 苦情処理検討会 ミニ講座より― |
「苦情を考える」−その6− |
日時: 2001年 11月15日(木) 講師: (株)エムジー商品試験センター 窪田一郎 氏 |
第5回で、「消費者は嘘はつかない。ただ真実は語れない」ことをお話しました。そのために事故原因は「事故品に聴く」必要があります。今回から、この「事故品に聴く」方法をお話します。 |
(1) 発生部位は大きな手がかり |
苦情の発生部位は、事故原因を探る上で重要な手がかりとなります。そのため、どこが事故部位かわからないようなケースでは商品苦情は成立しません。まして、事故品がない申出は例えば死体のない殺人事件のようなもので、事件を構成しえないのです。 発生部位がわからないようなケースには、2つのパターンがあります。苦情を受け付けた者が、申出をきちんと伺っていない場合と、申出内容が錯覚や勘違い、過大な期待による場合です。前者の例では、「クリーニングに出したら風合いが硬くなった。」というお申出を「クリーニングに出したらおかしくなった。」と記録するケースです。この場合、試験担当者は、事故品だけ見ても、どこにも異常は認められず、どこが苦情部位なのかわかりません。したがってその報告書には、「特に商品に異常は認められない。」と記載される誤りをおかします。 後者のケースでは、「クリーニングに出したら風合いが硬くなった。」というお申出に対して、同種新品と比較しても硬さに変化が認められないような場合です。この場合は、申出者に新品を提示し、変化のないことをご理解いただく必要があります。 では、変化が認められる場合に、発生部位の何が手がかりになるのでしょうか。それは、変化が何らかの作用の結果として生じるがゆえに、どのような作用が加わったかを知る手がかりとなるのです。 例えば、「洗う」という行為は、商品の全体に作用しますが、「着る」という行為は、摩擦を受けやすい部位とそうでない部位、光にあたりやすい部位とそうでない部位で作用が異なります。全体に色泣きを生じたのなら「洗う」という行為が作用因子と推測できますが、パンツの両裾だけスナッグを生じたというのは、「着る」という行為の中に作用因子があったものと推測されます。 |
(2) 発生部位の状況をよくみること |
発生部位が両裾だとしても、内側と外側ではどちらが顕著なのか、あるいは片面だけなのかといったことは作用因子を絞り込む重要な手がかりとなります。パンツの裾の裏側に顕著であるなら、靴との関連が強く推測されますが、パンツの裾の表側が顕著であるなら、内側と外側では原因が全く異なる可能性があります。 発生面積や変化の程度は表裏いずれから作用が加わったのかを知るうえで重要な情報を提供してくれます。表裏が同程度に変化しているものは、浸透性のある液体の作用を推測させますし、片面だけの変化は、物理的な原因や浸透性のない作用が加わったことを語ってくれます。 さらに、詳細に観察すると、生地組織の凸部だけが変化していたり、特定の糸や部分だけに変化が認められるケースもあります。凸部だけに見かけられるような場合は、接触が原因と推測されますし、特定の糸だけに生じているとすると、糸の組成や使用染料、あるいは撚数もしくは生地の組織が原因であると判断されます。 このように発生部位と発生部位の状況は、事故原因を知るうえで重要な情報を提供してくれます。 |
(3) 苦情部位を観察する方法---その1[光源] |
発生部位を観察するには、 a. 照明を明るくして観察する。 など、光源をいろいろかえて観察します。蛍光汚染や、生物の分泌物(カビや動物の糞尿など)にはブラックライト光源が大変有効ですが、太陽光でも、蛍光汚染などは目立ちます。 一般的には明るいほうが観察しやすいのですが、変化の少ないシミなどは光量が大きいと見えず、少し暗めにしたほうが目立ちやすくなる場合があります。 いずれの光源でも、表裏を含め、全体を観察しておくことが必要です。また、可能な限り写真にとっておくことをお勧めします。 |
(4) 苦情部位を観察する方法---その2[手段] |
観察するには、 a. 裸眼で見る。 といった手段があります。繊維では金属顕微鏡はほとんど使いませんが、ボタンやファスナーの損傷などには有効です。 一般的には実体顕微鏡と生物顕微鏡があるとよいでしょう。 |
つづく |
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