― 苦情処理検討会 ミニ講座より― |
「苦情を考える」−その5− |
日時: 2001年 9月13日(木) 講師: (株)エムジー商品試験センター 窪田一郎 氏 |
4回までは、苦情を法律上の責任という観点から考えてきました。今回から、より具体的に苦情を処理することを考えていきます。その前に、苦情の受付ということを見直してみましょう。 |
(1) 苦情を構成する5要素 |
苦情の申出は、次の5要素から成り立ちます。5要素とは、「対象」「作用」「内容」「理由」及び「希望」です。 例:ブラウスを洗濯したら色落ちした。欠陥品だから返品したい。 ブラウスが「対象」、洗濯が「作用」、色落ちが「内容」、欠陥品が「理由」、返品が「希望」にあたります。この5要素のうち、「理由」と「希望」は、申出時点では明らかにされない場合も多々ありますし、明らかにしないほうが処理が円滑に行くことも多いので、必須事項ではありません。しかし、「対象」「作用」「内容」は明確にしておかなければなりません。 何が苦情なのかわからないというケースも決して少なくありません。「風合いが無くなった」などはその最たるもので、同種新品なり生地なりが手元にないと比べようもなく、申出が事実か否か、受付段階では確認できないものです。「新品か生地を確認してご連絡いたします。取りあえずお買い求めの時期、お取り扱いの状況、お気づきになった時点などお聞かせいただけますか。」などとお話して、関連情報を詳細にお伺いしておくのが良いでしょう。 |
(2) 苦情申出のパターン |
申出者の性格や意図により、申出のパターンは大きく次のように分類できます。 a.○○○は△△△したら×××した。(説明型) b.○○○は△△△しないのに×××した。(防衛型) c.○○○は△△△したのに×××しない。(期待外れ型) d.○○○は△△△しないのに×××しない。(不安型) 上記4パターンのうち、cとdは対応理由をきちんと説明して解決しやすいパターンです。aとbには、末尾が「〜してしまった。」という場合もありますが、対処に苦労する場合があります。理屈で迫ってきたり、自分は何にもしていないのにこうなったといって、感情的になるケースは、aやbに見かけられます。どちらも、「責任者を出せ、お前じゃ話にならない。」といった展開に進む場合がありますので、対応には十分な注意が必要です。特に事実関係の正確な把握や、やり取りの記録を詳細まで残すようにすることが肝心です。詳細なテクニックは、窓口担当TES会員の方に次の講座でお話いただければと思います。 |
(3) 消費者は嘘は言わない。しかし真実は語れない。 |
苦情を受け付けると、その内容によっては、試験が必要になります。仮に事前検査データがあっても、苦情処理には役立たないケースが多く見受けられます。その理由は、 a.苦情の項目は検査していなかったので、事故原因を説明できない。 b.事前検査の結果は問題なかったので、事故原因を説明できない。 といった点にあります。そのため、ほとんどの場合、苦情を円滑に処理するためには試験が 必要になります。 試験を行っていくうえで重要なのは、消費者の申出内容です。これを無視して現象だけで試験を行うと、「そのようなことはしていない。人の話をきちんときいていないのか。」といったサービス苦情へと進んでしまいます。従って、「お申出内容に即して試験を行いましたら」と言えるような試験が必要です。 試験を行うときに、「クリーニングに出したと言っているが、家で洗ったんじゃないだろうか。」とか、「去年購入して、数回しか着ていないと言っているが、もっと前に購入して何シーズンも着ているんじゃないか。」というように、消費者の申出を疑ってかかるのは適切ではありません。あくまでも(善意の)消費者は嘘は言わないというスタンスが必要です。この姿勢を崩すと、「私が嘘を付いているって言うのか。」とサービス苦情に発展してしまいます。 では、消費者はいつも真実を語っているのでしょうか。残念ながら、消費者は自分の考える、あるいは自分が気づいた事実を語っているだけで、真実を話せるわけではありません。 例えば、「クリーニングに出したら色が変わって戻ってきた。」という申出を真実だとすると、クリーニングに原因があったと推測できますが、クリーニングに出す前に色が変わっていなかったことを保証するものではありません。あくまでも消費者が気づいたのがクリーニング後であったということを話しているのです。「一昨年買った」というのが、4年前だったりすることはしばしばあります。これも消費者が嘘を付いたと考えるのは誤りです。商品をいつごろ買ったか記録に残している消費者は家計簿をつけている方を除くと多くはないでしょう。すると、「いつごろお買い求めですか?」と尋ねられて、「○年前です」と正確に答えられる人は少なく、大半は『今年じゃなかったけど、去年だったかなー、一昨年だったかなー。3年はたっていないよな。冬物だから秋に買ったはずだけど。』といったことを考えて、「去年の秋ごろだと思う」といった返事をするのです。 このように消費者の申出はあいまいです。それは意図的なものではなく、消費者自身もとまどっており、事実を把握することさえ困難なのが苦情というトラブルの性格なのです。そのため、(善意の)消費者は意図的に嘘をついているのではなく、結果として真実ではなかったということがあるのです。 試験をするときには、このような苦情というトラブルの持つ性格を知った上で、試験を進めることが重要なのです。しかし申出内容が頼れないとすると、何を手がかりとするのでしょうか。消費者が真実を語れないのであれば、事故品から聴きだすのです。 次回から、『事故品に聴く』方法にすすみます。 |
苦情を考える→|1|2|3|4|5|6|7|8|9|10| |
HOME | 情報提供の目次へ |