法律上責任を負わねばならない商品の不良とはどのようなものでしょうか。
(1) 毛玉がひどくできた。
(2) ジーパンの色がシャツについた。
(3) Tシャツが斜行した。
(4) ワイシャツが縮んだ。
(5) スラックスの股下が破れた。
(6) ネクタイの毛羽立ちがひどい。
(7) ワンピースの丈が伸びた。
(8) セーターでかぶれた。
(9) ポロシャツが変色した。
これらは、不良品でしょうか?それとも正常品?商品の瑕疵といえるか、いえないか、法律上どのように解釈されるものでしょうか?
法律上の不良品とは、「著しく品質・性能が劣り、使用に耐えないもの」であり、法律上の欠陥品とは、「商品の不良が原因で人体もしくは財産へ損害(拡大損害)を発生したもの」と捉えることができます。上記の(2)と(8)は、拡大損害なので欠陥品である可能性があります。その他のものは拡大損害を伴わないため、不良品の可能性はありますが、単に品質レベルの低い商品というだけの可能性もあります。価格が高いからといって高品質・高性能であるとは限りません。粗悪品であっても、不良品ではありません。粗悪品は通常の品質レベルよりかなり品質の劣るものですが、使用が可能な限り不良品とはいえません。
不良品と粗悪品の違いは、「使用に耐えない」かどうかという点にかかってきますが、この判断は人それぞれであり、そのために苦情の撲滅は極めて困難というよりも、不可能に近いのですが、衣料品の使用に耐えない基準が法律で明記されているわけではないため、裁判所担当官の判断はやはり担当官の感性に左右される可能性があります。
しかし、裁判所は裁判官個々の感性で判決に差を生じないよう(法の下の平等の確保)、過去の判例や証拠、証言を重視し、判断しています。
証拠としては、試験成績証明書や、JISの「一般衣料品」基準、日本繊維協会の「繊維製品品質基準」などが参照されるものと思われます。しかし、これらに満たないからといって不良品と判断される可能性はそう大きいものとは考えられません。この基準以下だからといって使用に耐えないというものではないからです。
もう少し具体的に考えてみましょう。
「不良品だから返金して欲しい」 「これは不良品ではありませんから返金できません」といったやりとりがあり、「上司を出せ、社長を出せ」といった展開後に裁判へと進むのが通常だと思われます。
衣料品の場合、ほとんどのものが30万円以下なので、平成10年に改正された民事訴訟法の小額訴訟制度を活用して裁判となります。小額訴訟制度は、
(1) 訴額が30万円以下であること。
(2) 金銭の支払いを目的とするもの(金銭債権)であること。
の要件が必要です。
「新聞に詫び状を掲載しろ」とか「製品の回収広告を掲載しろ」といったような要求は小額訴訟制度の対象外のため、別の裁判が必要です。
さて、裁判所が重視するのは、真理や正義ではなく、法の遵守です。企業が苦情処理を適切に行わずに裁判に発展することは、他のもっと重要な事件の障害となり、好ましいものではありません。そのため、小額訴訟の場合、和解を勧められることが多くなると考えられます。小額訴訟裁判に参加している民間人の司法委員も「これじゃちょっと着れないよねえ」などといった発言をする可能性があります。「でも普段着だったら着れないわけでもないでしょう」と言ってくれるかもしれません。
このような場で、証拠としてのJISなどの基準は、衣料品の専門家ではない人たちにとっては影響を受けやすい資料となる可能性もあります。
このような流れを考えると、企業側が100%勝訴する可能性はあまり高いものではありません。昨年北海道地方裁判所で行われたクリーニングでシミができたズボンの裁判では、企業側が全面敗訴しています。
今回、不良品とは何かを考えてきましたが、繊維製品の事故は、訴額が小さく、裁判制度になじみません。そのために法律上の瑕疵(不良品)がどこまで及ぶか明確でないものの、企業側に全く責任なしの判決が出る可能性は低いものと考えられます。
そこで、衣料品の製造・販売にあたって、「苦情とは法律上の責任を負うものである」と定義して話を進めてきましたが、衣料品については法律上の責任が明確でないものの、不良品と解釈される可能性は少ないものではなく、したがって、企業は消費者対応を企業責任のもとに幅広く対応する必要があるといえるでしょう。
次回は、なぜ苦情は発生するのか、そのメカニズムを考えてみます。
|