― 苦情処理検討会 ミニ講座より―

「苦情を考える」−その1−

   日時:  2001年1月16日(火)
   講師:  (株)エムジー商品試験センター 窪田一郎氏


1. 苦情って何だろう?

JIS-Z9920「苦情対応マネジメントシステムの指針(以降「苦情対応MS」と略す)」では
「組織の消費者対応には、消費者への情報提供や、消費者からの問い合わせ・相談・苦情に対する対応も含まれる。その円滑な活動は、組織全体によい影響を与え、組織経営の質の向上に寄与し、組織全体が消費経済社会の発展・向上のために貢献する基本的な要件である。
消費者対応の一部である苦情対応は、組織が消費者の基本的権利を尊重しながら、苦情を組織全体の責任として真摯に受け止め、問題解決に努めるものである。その問題解決のためには、積極的、かつ、迅速・公平に活動を展開し、消費者の声を経営に反映させる必要がある。この活動は組織に利益をもたらすだけでなく、消費者からの信頼を得ることにもつながり、よりよい消費経済社会の建設に貢献することにほかならない。
組織のもつ社会的責任は多岐にわたるが、この指針に示した苦情対応活動も、その社会的責任の一部である。
消費者と組織が相互の立場を尊重し、この指針が双方にとって有意義に運営・維持されることを期待するものである。(序文より)」
として、「苦情対応MS」の定義では、
「苦情……製品又は付帯サービスに関連する消費者の不満足の表明。苦情には、製品又は付帯サービスに対するもののほか、これらの提供に関連する組織の活動、又は活動の結果によってもたらされる消費者の不満足を含む。」
としています。
さらに、
「苦情対応……苦情の受付から対応の終了に至る直接及び間接的な組織的活動。組織的活動には、苦情の対応に加えて、問い合わせ、相談などについて、消費者の満足の程度を改善する活動を含む。」
とあります。ついでに「苦情対応マネジメントシステム…苦情対応活動を適切に行なうための組織、人、手順、設備などの経営資源によって構築されるシステム。」と定義されています。

一方、通商産業省消費経済課平成6年11月発行の「製品事故・苦情処理対応の基本的考え方」においては、「消費者が企業に申し出る主な内容は、商品情報や買い物相談、カタログ請求、修理依頼、商品請求、サービス苦情、商品苦情などである。苦情とは、消費者が商品を購入する際に期待した機能(品質)が、使用段階において、期待に大きく反したり、事故の原因となったときに消費者は商品に不平や不満を持ち、苦情として企業に申し出るものである。また、商品が原因で危害(商品やサービスによって人身や財産に危害が及んだ事故)や危険(危害には至っていないが、商品やサービスによって人身事故の恐れのある状態)が発生した際にも苦情として企業に申し出るものである。企業における苦情処理の目的は、消費者が申し出た苦情を謙虚に受け止め、消費者が納得する方法で、迅速・公平に処理することである。」としています。この報告書では、このあと、苦情処理マニュアルの必要性について触れています。マニュアルについてはいずれかの機会に。

(1)「気に入った色の服がない」
(2)「ケーキが甘すぎる」
(3)「私に合うサイズの服がない」
(4)「値引きしてくれない」
(5)「クリーニングしたら1%縮んだ」
(6)「タバコの灰が落ちたらコートに穴があいた」
(7)「水洗い×の表示はあったが、ホームドライ洗剤でホームドライコースで洗ったのに色泣きした」
(8)「クリーニングできれいにならないこのセーターの上手な洗い方を教えて欲しい」
(9)「ここでは扱っていないみたいだけれど、どこでこのブランドを買えるか教えて欲しい」
このような申出は消費者の不満足の表明ではありますが、「苦情」でしょうか?
企業はこれらの申出に対応する必要があるのでしょうか?
あるいは、企業はこれらの申出を無視してよいものでしょうか?


2. 苦情とは?

苦情とは、申出先に何らかの対応を要求する申し出である。
これが窪田の考える苦情です。

相談とは、申出者が持つべき思惟行動について何らかの助言を期待する申し出である。
問合とは、申出先から回答を期待する申し出である。
商品や役務、その他消費生活に関する事項について、情報の提供を求めるもの
要望とは、申出先に何らかの検討を希望する申し出である。
意見とは、申出者の主義・主張・考えを伝えて何らかの対応を期待する申し出である。
苦情・相談・問合・要望・意見を明確に区分することは困難ですが、申出者の欲するところを感じ取る感性が必要です。また、「ケーキが甘すぎる」という申し出にしても、「私に会うサイズの服がない」にしても、初めての買い物では、意見ですが、繰返し購入していた店では苦情に近い感情を持たれます。「いつもと違う。これは期待してその店に行った私の行為が無駄にされた。今まで通りの対応をして欲しい。」といった気持ちが働くためです。

苦情とは何らかの要求の伴うものであり、要求する権利が申出者に存在するものを「苦情」と位置付ける必要があります。逆に申出先は、何らかの対応を取らねばならない責務を生じるものが「苦情」であるともいえるでしょう。ここでいう責務とは法律上の責任を問われるものです。

次回は、法律上の責任という問題を考えてみます。

(注)相談・問合・要望・意見に企業は応える必要がないと言っているのではありません。企業に対する消費者のイメージの向上、ファンの獲得、売上の向上といった観点からも積極的に対応していくことが苦情相談窓口を設置するメリットになります。



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