― 苦情処理検討会 ミニ講座より―

「苦情を考える」−その10−

   日時:  2002年 11月14日(木)
   講師:  (株)エムジー商品試験センター 窪田一郎 氏


部位ごとに発生する事故の特徴をみてきました。いよいよ今回が最後の部位で、下衣(パンツやスカート)に発生する苦情を考えます。

(1) 下衣に係わる作用因子

汗、光、尿、雨、泥はね、バッグ、財布・定期入れ、プレス、プリーツ加工剤、着用摩擦、着用方法など

1)汗
A) 汗はサイドポケット口、大腿部前側、膝後側に出やすい。
B) セルロース系素材のパンツの上記の部位の変色事故が多い。
C) カーキ色が緑に、紺や茶が赤に変色するものが多い。
D) 毛の紳士パンツのストライプだけ白くなるのは、綿ストライプに汗が吸収されて析出する場合がある。
E) 汗のみが原因の場合、内側のほうが変化が激しいことが多い。
2)光
A) 光の作用は折りたたんだ面に発生するか、タテ方向に長く発生することが多い。
B) 大腿部や膝後側で表面のほうが顕著に変色している場合は、汗と光の複合作用の可能性が高い。
3)尿
A) 尿は、紳士パンツフライ部分の下側に発生しやすい。
B) 尿は青白色蛍光をもつため、ブラックライトで観察するとわかりやすい。
C) 糖尿は、尿の便器からのハネが、パンツに付着し、乾燥すると白い糖の析出が見られる。
4)雨
A) 一般的には膝から下に暗色化したシミとして生じやすい。
B) シミは斑状もしくは広い面積を覆うように発生しやすい。
C) 酸性雨による変色の可能性も考慮する。
5)泥はね
A) 泥はねはパンツの後側に斑状に発生する。
B) 泥が除去されたあとに変退色していることがある。
C) 靴との摩擦では裾内側先端部に裾と平行に汚れが付着する。
6)バッグ
A) ポリエステル長繊維のゴルフパンツやスカートでは、バッグとの摩擦によるスナッグが目立つことがある。主に腰部分に発生することが多い。
B) 腰部分に発生する汚れの付着もバッグからの汚染である場合がある。
C) バッグ類との摩擦で腰外側に毛玉を生じることがある。
7)財布・定期入れ
A) ピスポケットに革製等の財布や定期入れを入れて使用していると、ポケット内部で下側の角が接触する部位が摩耗しやすい。
B) ポケット口が切れたり、摩耗したりするのにも財布などが関与している場合がある。
8)プレス
A) プレス熱による溶融破れは、ナイロン・綿の混用素材のパンツに多く見られる。
B) 紳士パンツの折目付近の変色には、プレス熱による可能性も考えられる。
C) 毛・ポリエステル混用素材の紳士パンツでは、プレス熱による生地の硬化事故が見受けられる。
9)プリーツ加工剤
A) 折目部分のシミや変色の原因として、プリーツ加工剤の過剰使用が考えられる。
B) 折目の折山部分の擦り切れも、プリーツ加工剤の繰り返し使用による繊維の脆化による。クリーニングの都度折目加工した場合、数年でウールトロピカルの折目が擦り切れる。
C) プリーツ加工剤の使用が、折目付近の生地の硬化の原因となることもある。
10)着用摩擦
A) 下衣で摩擦損傷を生じやすいのは臀部と股下部分である。スカート類では臀部が、パンツ類では股下部が摩擦によって毛羽立ち、毛玉ができたり、フェルト化したりする。
B) 股下部分は、歩行時の脚の前後運動によるバイアス方向の伸縮と、大腿部に挟まれて加わる揉み摩擦により、意外に早く摩耗して穴があく。
C) 靴と摩擦されるのは裾内側部分であるが、婦人ブーツのファスナー部が内側から裾の裏側に引っかかり、スナッグなどの原因となることもある。
11)着用方法
A) ズボン下を併用すると、股下の損傷が緩和される。ズボン下を穿かないと擦り切れやすい。
B) バスに乗るときや階段を上るときに、スカートのスリットあきどまり部分が切れやすい。膝は内側に出し、膝から下は外側に回すようにして着用すると防げる。
C) 体形とパターンの間にゆとりが少ない場合、臀部に強いシワを生じる。このシワに沿って生地が裂けたり(アセテートやレーヨン素材)、摩耗したりしやすい。
これまで、2年にわたって繊維製品の苦情というものを考えてきました。次回は最終回として、繊維製品の製品回収という問題を考えてみたいと思います。


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