― 苦情処理検討会 ミニ講座より― |
「苦情を考える」−その2− |
日時: 2001年3月15日(金) 講師: (株)エムジー商品試験センター 窪田一郎氏 |
苦情とは何らかの要求の伴うものであり、要求する権利が申出者に存在するものを「苦情」と位置付ける必要があります。逆に申出先は、何らかの対応を取らねばならない責務を生じるものが「苦情」であるともいえるでしょう。ここでいう責務とは法律上の責任を問われるものです。 |
3. 繊維製品の販売と法律 |
第1回で、苦情とは上記のように考えるとしました。今回は繊維製品の販売と法律について考えてみます。 |
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「この法律は、家庭用品の品質に関する表示の適正化を図り、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」もので、経済産業大臣は対象品目・表示の標準(表示すべき事項と遵守すべき事項)を政令及び規程で定めています。この法律に違反すると、表示事項を表示し、遵守事項を遵守すべき旨の指示がなされ(第4条第1号)、指示に従わない場合はその旨を公表することができる(第4条第2号)とされています。また、このような行政指導では効果がない場合、適正に表示することを命令し(第5条)、それでも改善されない場合、販売及び販売目的の陳列をしてはならないことを命ずることができる(第6条)とされています。ただし現在命令の対象品目はありません。 |
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「この法律は、消費生活用製品による一般消費者の生命又は身体に対する危害の発生の防止を図るため、特定製品の製造及び販売を規制するとともに、消費生活用製品の安全性の確保につき民間の自主的な活動を促進するための措置を講じ、もって一般消費者の利益を保護することを目的とする。」もので、政令で特定製品を定め、表示の付された特定製品以外のものを販売及び販売目的で陳列してはならない(第4条)としています。現在登山用ロープのみ対象となっています。 |
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「この法律は、有害物質を含有する家庭用品について保健衛生上の見地から必要な規制を行うことにより、国民の健康の保護に資することを目的とする。」もので、主として一般消費者の生活の用に供する製品全般(食品・食事用器具及び容器包装・おもちゃ・医薬品・医薬部外品・医療用具を除く)が対象となっています。有害物質を政令で定め(第3条)、その含有量、溶出量又は発散量に関し必要な基準(第4条第1項)と容器又は被包に関し必要な基準(第4条第2項)を定め、この基準に適合しない家庭用品を販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で陳列してはならない(第5条)としています。 |
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「この法律は、商品および役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例を定めることにより、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護することを目的とする。」もので、著しく優良であると誤認させる表示(第4条第1号)、著しく有利であると誤認させる表示(第4条第2号)、その他公正取引委員会が指定するもの(繊維製品では原産国を誤認させる表示)については、その行為の差し止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項などを命ずることができるとしています。 |
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「この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具に関する事項を規制し、もってこれらの品質、有効性及び安全性を確保することを目的とする。」もので、人体や動物に対する効能効果を表示した繊維製品は医療用具の範疇に含まれる可能性があります。「この法律で医療用具とは、人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること又は人若しくは動物の身体構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている器具機械であって、政令で定めるものをいう。」とされています。承認を受けていない医療用具については、「その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。」としています。 |
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「この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係わる被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」もので、製造又は加工された動産すべてが対象となります。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときはこの限りでない(第3条)とされています。繊維製品では、子守り帯からの落下による怪我、着火による火傷、皮膚障害、残針やバリなどによる怪我などの人身事故と、色落ちによる汚染などが想定されます。 |
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「この法律は、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係わる取引並びに連鎖販売取引を公正にし、並びに購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」もので、日常生活に係わる取引において販売される物品であって政令で指定商品を定めています。繊維製品では衣料品・寝具・手編み毛糸及び手芸糸・避難はしご及びロープ・床敷物・カーテン・テーブル掛け・タオルその他の家庭用繊維製品が対象となります。 通信販売においては、「当該商品の性能又は当該権利若しくは当該役務の内容、当該商品の引渡し又は当該権利の移転後におけるその引取り又はその返還についての特約その他の通商産業省令で定める事項(1.商品の性能若しくは効能、役務の内容若しくは効果又は権利の内容若しくはその権利に係わる役務の効果、2.商品、権利又は役務についての国又は地方公共団体の関与、3.商品の原産地若しくは製造地又は製造者名、4.法第8条各号に掲げる事項)について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。」(第8条の2)としており、これに違反すると指示(第9条の2)、業務の停止(第9条の3)といった処置の対象となります。 さて、以上のような法律に違反しているからという理由で、消費者は法不適合品を返品することができるものでしょうか。 製造物責任法では、単なる商品の瑕疵(不良品)は対象外ですし、その他の法規は行政法のため、行政処分の根拠法規ではありますが、私法上の直接の根拠規定にはならないと解されています。 では、消費者が対応を要求できる根拠規定は何でしょうか。 |
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第415条「債務者がその債務の本旨に従いたる履行をなさざるときは債権者はその損害の賠償を請求することを得る。債務者の責に帰すべき事由によりて履行をなすこと能はざるに至りたるときまた同じ。」 第570条「売買の目的物に隠れたる瑕疵ありたるときは第566条の規定(契約の解除、損害賠償、その期間は1年以内)を準用す。但し強制競売の場合はこの限りにあらず。」 とされています。前者を債務不履行による損害賠償責任、後者を瑕疵担保責任といいます。 また、第709条「故意又は過失によりて他人の権利を侵害したる者は之によりて生じたる損害を賠償する責に任ず。」という製造物責任法の母体となった不法行為責任があります。 売買契約を解除することの私法上の根拠規定は、民法415条もしくは570条とされています。 ところが、415条と570条の法理的解釈は明確でなく、570条は特定物の売買に限るとする説や570条は415条の特則であるという説など、さまざまです。 消費者が返品を要求するのであれば、570条は無過失責任なので、手軽で使いやすいというメリットがある反面、契約の解除・損害賠償請求・代金減額請求を1年以内に行わねばならず、しかも損害賠償請求できる範囲は信頼利益の賠償の範囲とされています。 一方、415条は、債務者の過失責任となるので、債務者に過失がなければ請求できないものの、契約の解除・代物請求・修理請求・損害賠償請求を10年以内に行うことができるというメリットがあります。また、損害賠償請求できる範囲も履行利益の賠償の範囲となるため、請求額も大きくすることができます。 現実には、415条と570条を請求の目的に応じて使い分けているのが実態のようです。 さて、それでは、中国製のセーターにイタリア製の表示をつけて販売した場合、415条や570条で契約の解除ができるものでしょうか。あるいは、羊毛のセーターにカシミヤ100%と表示したものはどうでしょうか。 結論からすると、これらは、瑕疵でも債務不履行でもないため、これらの条文は根拠規定とはなりません。 第95条「意思表示は法律行為の要素に錯誤ありたるときは無効とす。但し表意者に重大なる過失ありたるときは表意者自らその無効を主張することを得ず。」とあり、イタリー製だから、あるいはカシミヤだから買おうとしたのに、それが誤りだったから契約を解除するという展開になります。 即ち、表示違反商品の返品については、「錯誤による意思表示の無効」が成立し、売買契約が解除できると理解されます。 このように現行の民法では不当な表示についても、ややこしい概念で対応せざるをえず、今日の消費経済社会の消費者保護には不十分であることから、民法の特別法として、消費者契約法が制定されました。 |
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「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申し込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」もので、「重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認」をし、それによって当該消費者契約の申し込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。(第4条)としています。 現実には、景品表示法違反や家庭用品品質表示法違反など行政法に違反する商品は、消費者契約法違反と考えられるので、消費者の法的権利が明確となり、企業は速やかに返品対応をとることが、円滑な解決をもたらすといえるでしょう。 では、不良品についてはどのような法解釈がなされるのでしょうか。 不良品は瑕疵のある商品といえるので、570条の瑕疵担保責任を考えることができます。ただし、この場合は隠れたる瑕疵であることが必要です。また、引き渡した商品が不良品であるということは、債務の不完全な履行とも考えられ、415条の債務不履行責任が発生するとも考えられます。 ここで問題となるのが、1.その商品は不良品か 2.不良品の引渡しにあたって販売者として過失があったか の2点です。 瑕疵担保責任は無過失責任ですから、1のみの問題です。債務不履行責任は販売者が過失のなかったことを立証すれば責任は免れます。しかし、不良品であったとすれば、販売者に過失がなかったと言い切ることは難しいでしょう。 次回は、不良品とは何かを考えてみます。 |
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