<苦情品の検討 1件(婦人コートの部分変色)>
今回、クレーム品として持ち込まれた製品は「組成綿64%,ポリエステル36%の婦人コート」。09年春に着用後クリーニングに出しその後自宅のクローゼットに保管して数ヶ月後着用しようとしたところ部分的に変色していたというもの(地色はベージュ色→オレンジがかった色に変色していた)。この素材を使ったシリーズでも同様の事象が発生していた。
生地検査データでは汗堅牢度、ドライクリーニング堅牢度、塩素処理水試験結果ともに4級以上という結果。自社で行った再現試験では酸及び塩素系漂白剤で行ったもので同じような結果が見られたようであった。質問者側からは酸性雨による変色ではないかという声があったが変色の状態、カフス内部にも発生していることなどからこのことは否定された。
変色状況の詳細な検証で、酸化窒素ガスによる変色の可能性、または黒色(変色関係が逆の)反応染料のホルマリン(家具内や室内に存在する)との化学作用による変色ではないかという推論が披露された。関連して推論を導き出すために必要とされる試験項目の解説が行われた。
<展示パネルの課題「合成皮革などに発生する事故事例」>
西山先生の事例研究は、@合成皮革の硬化(塩ビの上にポリウレタン層でコーティングされたもので、ドライクリーニングにより塩ビの可塑剤が溶け出すという事例)、この解決法では洗濯表示を水洗いとし、汚れた場合には中性洗剤で汚れを落とすという注意表示が効果的と説明された。A合成皮革バッグの取手の剥離事例(人の手から分泌されるオレイン酸により取手のコーティング剤が剥離するというもの)では、改善策として取手部に直接手がふれない加工が必要だろうという説明であった。
<ミニ講座「衣料用合成皮革の製法と品質について」>
ミニ講座は東洋クロス株式会社クロス・レザー事業部馬場健一先生の「合成皮革の製法と品質について」であった。合成皮革の定義から始まり、乾式・湿式の被膜の違い、着色・変色・加水分解・劣化など合成皮革にまつわる諸トラブル事例の原因分析。促進試験(ジャングル試験)、複合オレイン酸ジャングル試験、ケアラベルの諸注意など具体事例に基づいた幅広い解説がなされた。会員にとっては普段から合成皮革に関する情報が多くなく、この機会に疑問点を質問しようという意気込みが感じられた。
他国に比べ品質的に良いといわれる日本の合性皮革製品の市場シェアは年々低くなっており、このことが別の意味で問題の一因であろうとの印象を受けた次第である。
(記 田中耕治・写真 千葉美佳)