2024年度

2024年度 第1回基礎講座セミナー

日 時 2024年7月27日(土)  13:00~15:00
場 所 名古屋文化短期大学 B401教室
テーマ 「スポーツを通じて、豊かで健やかな暮らしを実現」
講 師 株式会社ゴールドウィン 開発本部 テック・ラボ
R&Dグループ 中村研二様
参加者 52名

講演概要

株式会社ゴールドウィン 中村研二様にお越しいただき、「スポーツを通じて、豊かで健やかな暮らしを実現」をテーマに、(1)スポーツウエアとはどのようなものなのか、(2)商品開発や環境に関する取組み事例、(3)未来に向けての構想、についてご講演いただいた。
開発事例を紹介いただきながら、一般衣料とは全く異なる設計手法や機能性素材、そして持続可能な開発に対する取組みについて幅広く学ぶ貴重な機会となった。

講演内容の概要 スポーツウェアに必要な機能として、下記が挙げられる。
 (1)高いパフォーマンスを引き出すために動きやすく疲れにくい構造であること
 (2)厳しい動きに耐えうる高い強度や身体の保護が必要であること
 (3)過酷な自然環境(気温や風雨、雪、紫外線)に耐えうること
 (4)汗に対する対策
 (5)環境への配慮、持続可能性への対応
スポーツウェアは運動パフォーマンスを最大限に引き出すことが重要である。そのため、通常の衣服とは異なる設計アプローチが必要である。
1. スポーツウェアの機能素材 【吸汗速乾素材】吸収した汗を素早く外部へ発散させる高い機能性をもつ素材である。冷却の促進、ベタつきによる不快感や運動性の妨げ、汗冷えの防止において、速乾性は重要である。汗を生地表面に素早く拡散させることで速乾性を高めている。
【防水素材】防水にははっ水と耐水の2種類がある。はっ水性とは水を弾いて生地自身を濡らさない機能、耐水性とは水を衣服内に侵入させない機能と定義される。過酷な環境下で使用するレインウェアは耐水度が10,000mm水柱以上必要な場合もある。濡れた場所に座ったり、風雨の中で動いたりする際に高い圧力がかかるためである。雨傘とはその点で要求される耐水度が異なる。さらに、衣服内の湿気を外部へ排出することも快適性の維持や身体の保護において重要である。これらを両立するためには防水透湿膜を貼り合わせる必要がある。
2. スポーツウェアの衣服設計 通常の衣類は、直立した人体を基本姿勢として設計する。一方で、スポーツウェアは動きを考慮した姿勢が基本となる。基本姿勢が異なるため、肩傾斜や肩幅、袖山、袖丈など様々な身体寸法が一般衣料とは違ってくる。さらに、スポーツの種類によって基本姿勢が様々であるため、各々の競技において最適な基本モデルを導き出すことがポイントとなる。
また、トップクラスの選手の体型は一般人とは大きくかけ離れているため、一般的な人体モデルからのパターン展開はできない。
3. 開発事例 【スポーツクライミング】この競技は「スピード」、「ボルダー」、「リード」の3種目からなる。スピード種目は動き易さに、他2種目は様々な動きに対応できることに焦点を当てて設計した。同じ競技においても種目によって開発コンセプトが異なる。選手の人体形状と動きを解析して、基本姿勢を設定した。この原型をもとにコンピュータ上でパターン展開した。
【ラグビー】ポジションによって選手の役割や体型が大きく異なる。体型に対する階層クラスター分析から判明した2グループの平均ボディを作成した。また、フォワードは強度重視、バックスは運動性重視の生地を開発した。また、編組織と後加工を組み合わせることで、体にフィットしながらも汗によるベタつきを軽減させた。その他、ボールのグリップ加工を胸部分に施した。
【健康アイテム】足首からふくらはぎにかけて段階的に着圧を変化させることで血行促進を向上させることを狙ったタイツや、編み組織でサポータ機能をもたせて足裏のアーチ形状をサポートするためのソックス、最近注目を集めているリカバリーウェアについて紹介いただいた。
【グリーンデザイン】Spiber社が開発した構造タンパク質繊維「Brewed Protein TM」はバイオマスを原料とした生分解性素材である。2021年より商業生産が開始された。機能と環境性を両立する素材として、今後が期待される。株式会社ゴールドウィンは、多ブランドで展開を開始している。 ラグビーファンから集めたウェアをケミカルリサイクルして、ラグビー日本代表ジャージに再生する取組みをおこなった。ポリエステルを性能低下させることなくケミカルリサイクルすることに成功した。
4. 未来への取組み「PLAY EARTH」について スポーツの起源である「遊び」を通じて自然や環境との新たな関わりを生み出していくことを「PLAY EARTH」というコンセプトを掲げて活動している。「PLAY EARTH PARK NATURING FOREST」は自然と遊ぶ体験を提供する場として、2026年の開業を予定している。また、好奇心や探究心を刺激する空間設計により大人も子どもの楽しめる店舗「PLAY EARTH PARK WONDER STORE 都立明治公園」を展開している。子どもたちが自然とのより良い関係を築く場として期待される。