2019年度

2019年度第1回基礎講座セミナー

日 時 2019年7月20日(土)14:00~16:10
場 所 名古屋文化短期大学
テーマ
講 師
テーマ:『スポーツ向けなどの機能性素材』
講 師:東洋紡STC株式会社 技術開発部 開発グループ 課長代理 森井 浩之氏
参加者 65名

講演概要と感想

 50年前であれば、スポーツウェアは汗を吸収する綿素材が当たり前であったが、今日ではポリエステル素材が取って代わっている。その背景にあるのは合成繊維の機能性の大いなる進化である。スポーツ衣料向け素材の開発に長年携わってきた森井氏にスポーツ衣料素材の機能性についてお話しいただいた。
 講演では、原材料から生地に至る製造工程においてどの段階でどのような機能性を付与するか、また、機能化技術の工程別にみた場合では、ポリマー段階での新技術はほぼ開発されつくしたと思われること、従って紡糸工程以降において新技術の開発がすすめられているのが現状だと話された。
衣料分野のうち、スポーツ衣料に要求される性能は衣料品としての基本的性能である染色堅牢度と物性の他、①運動機能性、②快適性、③耐久性、④安全性の4項目である。
① 運動機能性
ポリウレタンを使わないことで脆化のリスクを軽減し、高捲縮ポリエステル加工糸に特殊樹脂で化学結合させることで生地の伸長率を高め、ループが変形しやすく、変形したループが戻りやすい編地が開発されている。この製品の開発のヒントは「原料の本来の目的以外への応用」だったという。
② 快適性
スポーツ衣料向けに限らず、機能性には快適性を追求したものが多い。アクリルを化学的に改質した合成繊維であるアクリレート系繊維は吸湿発熱、消臭、抗ウィルス、抗アレルゲン等の機能発現を可能にしている。長繊維と短繊維を様々な構造に組み合わせ、それぞれの長所を生かす長短複合紡績糸は、毛羽を減らす、ストレッチ性を与える、メランジ効果を付与するなどの機能性を有している。また、洗濯脱水速乾に優れた編地は、3分間の脱水後水分率が、既にそのまま着用しても違和感がないと言われる10%に近く、30分後にはほぼゼロに近づくというから驚きである。
③ 耐久性
スポーツ衣料には、激しい動きによっても破れ、裂け、毛玉等が生じにくい性能や洗濯時に汚れが落ちやすい性能が要求され、これらに対応する素材が開発されている。
④ 安全性
摩擦熱を減らすことで体育館床耐スライディング性能を向上させて火傷の防止、グラウンド耐摩耗性能を向上させることでスライディング時の破れを防止する素材が開発されている。

 紹介していただいた製品の最後には、開発に至ったヒントが付けられていたのも興味深かった。例えば、乾燥材シリカゲルの吸湿性能が発熱を伴うことは吸湿発熱のヒントとなった。「同じ性能の他業種素材を知る」である。「真逆性能を考える」「本来の用途以外の使い方を考える」「長所と短所を有効活用する」など。「ヒントは日常生活の中のどこにでも転がっている。」とも言われた。気付くか気付かないかの差である。以前、他のメーカーの開発者の方からも聞いた言葉であった。