29年度

平成30年度 第1回 基礎講座セミナー

日 時 平成30年7月7日(土) 14:00~16:00
場 所 名古屋文化短期大学
講 演 『商業クリーニングから見た新JIS表示施行後の問題点と求められる繊維製品』
講師:(一社)関西繊維商品めんてなんす研究会 西山 誠 氏
内 容 ウェットクリーニング表示(新取扱い表示)の付いた商品もクリーニング処理される ようになってきて、適正な表示、適正な処理がなされているかを実際の事故事例を参 考にクリーニング業界が抱える問題点も示していただきながら、表示についての問題 提起、具体的な対策の提案をお話しいただきました。
参加者 61名

講演概要

 2016年12月に施行された新JISにより、取扱い表示が変わった。施行にあたっては、業界でいろいろな議論や疑問提起がなされたが、施行から1年半を経過した今日、大きなトラブルも報告されておらず、心配したような状況にはなっていないように思われる。実際のクリーニング現場はどうなのか、自らもクリーニング店を経営しながら、(一社)関西繊維商品めんてなんす研究会のメンバーとして活躍されている西山氏に現状と課題についてお話ししていただいた。
 西山氏が最初に指摘したのは、水溶性の汗汚れが多い夏物衣料で家庭での水洗いも商業クリーニングでのウェットクリーニングも不可という表示が付けられた衣料品をクリーニング業者としてどう扱うか、なぜそのような表示になるのかをアパレル業者、クリーニング業者、消費者のそれぞれの立場から問題を提起された。
・アパレル業者の問題:
 ①新表示になっても、考え方は以前と変わっていない現状
 ②ウェットクリーニング表示をすることに対応できていない
・クリーニング業者の問題:
 ①業者間の技術格差が大きい
 ②ウェットクリーニングに対応できない業者も多い
・消費者の問題:①製品への過剰な期待と過剰な要求、「言わないと損」発想

 それぞれが他者の立場に対して配慮が欠けることが問題をややこしくしていると言えるようだ。このことは、トラブルが発生した時のアパレル業者の対応が事前試験結果を絶対根拠として自らをガードする辺りにも表れている。
 そもそも、クリーニング業者の立場からすれば、事前試験に関してはいろいろな疑問がある。 ① 販売されている形の製品でなく、生地段階での試験がほとんどであること ② 生地試験は、試験機関の試験室で試験機によって行われ、商業クリーニングの実態とかけ離れた条件で行われるため、結果が異なる可能性があること ③ JISの試験の中には、使用する剤が実態とかい離しているケースもあること
 こうした現状を改善するために、最低限トラブルが懸念されるものだけは実機を使って実際の商業クリーニングをしたらどうなるかを確認して表示を決めてほしいと西山氏は訴える。
 新表示になって加えられたウェットクリーニング表示は、施行から1年半以上経た今でも様々な課題を残している。アパレル業者も積極的に表示を理解して正しく表示しようとする意識に欠けるようにも思われる。ウェットクリーニングは、本来なら水で洗いたい衣料品を家庭での水洗いはできないが、商業クリーニング業者なら水洗いできるという付加価値を表すメリット表示であるので是非とも可能なウェット表示をしてほしい。一方、多大なメリットのあるウェットクリーニング表示であるが、商業クリーニング業者として解決しなければならない課題もある。
① 規定されたMA値で洗うことができるか?(ここでもJIS試験機と業者の実機の機械力にかい離があるため、クリーニング業者各社は、自社の実機の機械力に合わせて規定されたMA値で洗えるようにプログラムを調整する必要がある) ② ウェットクリーニングは洗浄力が弱いのが弱点であるが、汚れを十分に除去できるか?(JISには、洗浄力に関する規格はない) ③ 着用可能な状態に復元できるか?
 ウェットクリーニング表示では、タンブル乾燥の可否がよく問題になる。家庭での取り扱いを対象としていた旧表示の頃から、タンブル乾燥により収縮する懸念があるとして、「タンブル乾燥禁止」の付記用語が頻繁に使われていた名残と思われる。
 実際に、家庭洗濯でとし、商業クリーニングでのウェットクリーニング表示はという表示がよく見られる。ウェットクリーニング時のタンブル乾燥を避けたいためにとするのだが、これでは家庭での水洗いに比べて洗浄力が劣ってしまい、汚れが十分に落とせない懸念がある。常識的に考えて、綿などのニットをウェットクリーニング後に強いタンブル乾燥することはないので問題はないことを表示する側も理解してほしいし、クリーニング業者もウェットクリーニングの乾燥に関しては、家庭でのタンブル乾燥記号を参考にしつつ、洗い優先で処理してほしい。

「起こるべくして起こる樹脂プリントの汚染」「ポリエステル+ポリウレタン素材の色泣き、溶剤汚染問題」等、古くて新しい業界の諸問題を、各立場で責任のなすりつけ合いをしている現状=不幸な関係から脱却すべく、お互いが理解を深めてより精度の高い表示をすることで、最終的にはそれが消費者利益になる表示をしてほしい。
 120分では西山氏の伝えたいことはまだたくさん残ってしまったようであったが、要はアパレル業者もクリーニング業者も自分の都合のよいことばかりを考えずにお互いに相手のことも考え、最終的には消費者にとって何がよいのかを基準として表示を決めてほしいと締め括られた。