29年度

平成30年度 第3回 基礎講座セミナー ★ TA共同開催

日 時 2019年3月16日(土) 14:00~16:30
場 所 名古屋文化短期大学
内 容 ㈱エアークローゼットの代表取締役/CEO天沼 聰氏に、略歴と会社紹介をしていただき、ファッションシェアリングについての世代別意識の違いなどフィードバックデータの活用などを分かり易くお話いただき、会社の目的としているのが、レンタルをしたいのではなく出会いが作られるこちを主眼としているなど会社の方向性事業展開についてなども興味深く、刺激となるお話をお聞きした。
参加者 73名

講演概要と感想

『ファッションシェアリングが作る出会い体験』
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼CEO 天沼 聰氏

 2014年の会社設立・2015年のサービスリリース以来、㈱エアークローゼットは普段着ファッションのレンタルというユニークなサービスでファッション業界に新風を吹き込んだ。現在の会員数は22万人ともいわれ、ユーザーの満足度も高いようである。今回のセミナーでは、同社代表取締役社長 兼CEO天沼聰氏に起業の理念と現状、また今後の方向性についてお話しいただいた。
「現代社会で1日に世界で飛び交うニュース数は2,700万件」とも「現代の日本人が1日に入手する情報量は平安時代の人の1年分に相当する」ともいわれるという。
 現代は忙しさからファッションに関わる時間が減っている時代である。それなら、月額制、ノークリーニングで返却、返却期限なしというシステムで同社の登録スタイリストがそのユーザー用にコーディネートした普段着ファッションを提供することで今までと違う自分に出会うワクワクする機会を提供しようというのが起業の理念という。

 そう話す天沼氏はずっとファッションとは別の世界で仕事をしてきた。これまでのファッションレンタルと言えば、いわゆる貸衣装として結婚式や成人式等の特別な機会で着る非日常着を貸し出すのが一般的であったが、同社の場合は普段着に特化している。さらに、天沼氏は「レンタルは目的ではなく、手段」だと言う。得意なITを駆使して場所的な制約をなくし、個々人が持つ固定概念に捉われず、「お客様が感動する洋服との出会い」を提供することで「ワクワクする体験を楽しんでもらう」ことこそが同社の目指すところである。
 「アパレルは、試着された服が購入されなかった場合、"何故なのか?"を次のもの作りにフィードバックできていない。」業界では以前から指摘されている課題であるが、いまだに改善されるに至っていない現実でもある。同社はユーザーとのコミュニケーションを深め、データを蓄積・活用することでそこに踏み込み、次の商品選択に活かせるように検討を進めているという。まさにIT寵児の天沼氏のなせる業である。
 ユーザーだけでなく、商品提供者であるアパレル(ブランド)担当者や物流会社、クリーニング会社とのコミュニケーションも大切にしている。IT活用がビジネスのベースにありながら、物流やスタイリングなどそれぞれの現場で「自ら体験する」ことも重視する現場主義でもある。その根底にあるのが、常に改善を続けてサービス・品質の向上を目指すという同社の企業理念である。

 利用目的に関するユーザーアンケートの結果も面白い。第1位:自分に合う服を知りたい 第2位:新しい服との出会いを楽しみたい 第3位:時間がない。この結果から見てもユーザーは「モノ」を求めているのでなく、洋服とのワクワクする出会い=「体験」を求めていることが分かる。

 同社はスタートアップであり、前例のない業態に取り組んでいるだけに試行錯誤もやむを得ないのかもしれない。それでも、挑戦する姿勢は素晴らしいと思う。レンタルと言えば、一般的には既存のアパレルからは敵対心をもって見られがちであるが、同社が目指すのは作り手と出会いの提供者という協業関係での共存共栄である。
 急成長を続ける同社であるが、ファッション業界はどう変わるのか、「買う、所有する」は「シェアする」に取って代わられるのかと言えば、長い目で見れば、「シェアする」が漸増していくだろうというのが天沼氏の考えと思われる。背景にあるのは、マスからパーソナルへ、モノからコトへ、お金価値から時間価値へという社会の変化である。社会の変化を見据えてその進みつつある方向を企業が目指していけば、シェアリングサービスの社会的認知は少しずつ高まっていくということであろう。

 大切なのは、①ITと現実を融合するテクノロジーハイブリッド、②プラットフォーム、③人の3つであるとし、「最適な人に、最適なものを、最適なタイミングで提供するビジネスを追求したい」として講演を締め括られた。

 異業種参入という言葉があるが、天沼氏の場合は異人種参入だと思いながら楽しく聴かせていただいた。変化への対応が必要と言いながら、旧態依然とした業界への新風に期待しつつ、同社の成長を見守りたい。